彼女と会ったのはただの一度だけだった。 何度も会おうと告げる機会はあったのかもしれなかったが、そのことを言い出す勇気が僕にはなく、彼女にはその必要がなかった。僕たちの関係性はネットの世界だからこそ辛うじて繋がっていたのだと、当時から僕はそう思っていたし彼女もまたそうだったはずだ。 手探りで始めたネットワークには結局人間しかいないことに気づいた僕は、日ごろの言動からは想像できない積極さでメールを書き、それに答えたのが彼女だった。言葉だけのやり取りが僕を大胆にしていた。 プロバイダのトップページにリンクされていたユーザーのhomepageをアルファベット順に手当たりしだいに開いて、なんとなく気になるページを見つけるとメールを書く・・・今ならばあまりにも膨大すぎて、ちょっと手をだす気にもならない処だが、あのころはそれができた、といっても当時でもそれはかなり物好きな行為だった。8割9割はどうでもいい、homepageという言葉を文字通りに理解したとしか思えない、意味のない自己紹介や家族の写真が2・3点という陳腐さで埋められたページばかりが続くなかからお気に入りを見つけだすのはまさに「徒労」というのがぴったりな行為だったが、だからこそそのなかからきらりと光るもの、あるいはどこかしらひっかかるものを見つけると思わぬ拾い物をした気になった。 たわいもないやり取りが微妙に変わったのは、当時僕が書いていたweb日記がきっかけだった。自分に向けて書かれた文章に敏感に反応する彼女からのメールを読み返し、僕は一層挑発的になる。卑猥で暴力的であることを彼女自身が望んでいることに気づいたのだ。 |
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