ドアを開けると、部屋の向こうで母がチョコンとこたつの前に座っていた。あれ、どうしたの?と僕が尋ねると、 「お正月だから。」 そう答える母に、子供達は正月早々に仕事があって昨日帰ったよと告げると、 「なんでもう少し引き留めておかないの、お年玉用意したのに。」 もうお年玉をあげるような年じゃないし、それよりこっちには一人で来たの?と返事しながら、この時点で僕はもう気付きはじめていた。 「今日はお正月らしい良いお天気でポカポカ陽気になりそう。」 「あとで散歩にでもいこうかね。」 「去年の紅白は見た?」 あまりに空虚な母との会話に耐えきれず、僕の意識は徐々に醒めてくる。そう、こんな会話を母と交わす筈も記憶もなかったのだ。 夢のなかで、これは夢なのだなと、なんとなく気づく時、僕の意識は多重露光の写真のように二つに重なって、夢の中の僕とそれを少し高みから見物する僕に別れていく。ひどくリアルに思えていた会話の端々に妙な違和感を感じたり、場違いな多幸感故にふと我に返ると、夢と現実の境目の濃度が少しずつ反転していくのだ。もう少し夢の側に居たいなと思っても、これは夢だとささやく声がつまりは自分自身の声であることを知ると目覚めはもうすぐ近くだったりする。 窓の外には正月の少し空虚な青空と明るい光が溢れている。 もう母とは二十数年会っていない。 |
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