デーテーペーな1日

8月7日(Wed)
 偶然というヤツの無神経さには、いつもうんざりさせられる。誰も期待していない結果を、言い訳のない傲慢さで私に押しつけようとする。

路上にて・・・過去と出会う

 その街につながる記憶のあったことすら、すでに私は忘れていた。
 ことさらに雑踏を求めてくるようなおびただしい人の群・・・家族をもつまでの私にはまったく無縁な場所のひとつだった。人並みに迎えた新年を家族と共に祈ること。もはや、私に祈りの対象がないとしても、その"存在せぬ存在"に対して祈ることはできた。
 例年にない参拝者で混雑する正面を避け、私達は裏道を抜けて帰りの地下鉄駅に向かうことにした。何本か通りを横断すると、あの喧噪が嘘のようにひっそりと街は静まり返っていた。正月でシャッターの降りた商店とひっそりと松飾りだけが小さく飾られた街並みに、ほとんど人の姿はなかった。
 白い息を弾ませながら、子供達が私の前後を走り回る。

 その角を曲がったとき、不意にあなたと出会った。いぶかしげに見返すあなた。正直言って私にはまるで分からなかった。3歳位の女の子の手を引き、その後ろには中学生らしい、セーラー服を着た少女がひとり。一瞬止まりかけた私に、駆け寄ってきた子供達が手を繋ぐ。あなたの連れた子供の顔のなかに、他ならないあの当時のあなたの面影を見つけて、初めて私は気づいた。
 言葉もなく立ち止まり、見返すあなたの瞳の中に私が映っている。そのやせぎすな身体と、左の鎖骨にそって並んだ二つのほくろの事までもが、ありありと私の脳裏に蘇る。



 流行には無頓着だが、知性的なスタイルを好む彼女からはいろいろなことを教わった。
 SEXにおいて、女性に主導権を握られたことも初めてなら、彼女のように自らの欲望に正直な女性も見たことがなかった。私の上にまたがったままで、煙草に火を付けることがよくあった。好色で、大人びた女(ひと)だった。
 微妙に腰をグラインドさせながら私に煙草を渡すと、もう1本に火を付ける。左手にもった灰皿の縁を煙草の火でなぞりながら、いたづらな目で私を見おろす。じれた私が動きを早めると、不意に高まった快感に耐えるように眉を寄せ、そっとサイドテーブルに灰皿をおく。汗ばんだ乳房を密着させると、私の耳を小さく噛んで、溜息と共に私の名を呼ぶ。
 翌朝、事務所で会う彼女は、明け方まで続いた痴態をみじんも感じさせない手慣れた様子で、私たちに仕事を割り振りし、いつものように自らの作業に没頭していた。

 もはや説明不要でしょうか?新しく僕の日記を読まれる方も最近は増えているようですが、こんな日記も"アリ"なんでしょう。特別意図があって書いている訳ではありませんが、なんの意図もないのかと訊かれると、そのあたりは「さぁ?」と曖昧なままにしておいた方がよいのかも知れません。多分、連載日記(!)となるので、明日に続くのでしょう。
 私の記憶に重なるもの・・・それは不確かな妄想か、それとも、何かの贖罪のための懺悔なのでしょうか。明日につながる自閉の記憶に、微かに心を痛めているのかも。




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