合唱団たちばな

第5回 演奏会


1983年11月15日に行なった「第5回演奏会」のプログラムを紹介します。

ごあいさつ
 本日は私たちの演奏会においでいただき、ありがとうございます。
 東京郊外の一都立高校の音楽部卒業生で、合唱の魅力にとりつかれた十数名によって発足したこの合唱団も、五回目の演奏会を迎えることになりました。団員層も広がり、バッハから邦人曲、さらにはポピュラーや歌謡曲に至るまで、ユニークな音楽をもって活動する合唱団へと成長いたしました。
 今宵のステージでは、作曲家平野淳一先生に、合唱団として初めての委嘱作品をお願いしており、団員一同たいへん意欲的に取り組んでおります。
 どうぞ最後までごゆっくりお聴きいただき、合唱する楽しさを少しでも感じていただけたら幸いでございます。


プログラム
混声合唱曲島よ
作 詩
作 曲
指 揮
ピアノ
伊藤 海彦
大中  恩
松島  豊
伊藤 雅子
混声合唱組曲愛のプロローグ
 T ひとりぼっちの裸の子ども
 U かなしみについて
 V からだの中に
 W じゃあね
作 詩
作 曲
指 揮
ピアノ
谷川俊太郎
高嶋みどり
秋吉  亮
清水ゆう子
混声合唱組曲(委嘱作品)ひとりぼっちの夏
 1.星
 2.君はレイラ
 3.深紅のバラが朽ちる……
 4.ひとりぼっちの夏
作 詩
作 曲
指 揮
ピアノ
立澤 保彦
平野 淳一
岡本 俊久
清水ゆう子
沢田研二ヒットナンバー
 1.TOKIO
 2.危険なふたり
 3.時の過ぎゆくままに
 4.カワブランカ・ダンディー
 5.追 憶
編  曲
指  揮
ピ ア ノ
ドラムス
金川 明裕
岡本 俊久
清水ゆう子
星  雅子



委嘱作品『ひとりぼっちの夏』によせて
 立澤保彦が逝って、もう二年半近くになろうとしています。彼の書き残した詩や短文を、残された両親がまとめた遺稿集、「ひとりぼっちの夏」ができあがったのが、ちょうど彼の一周忌の頃でした。両親と話をするうちに、何かひとつでも、若い人達が唱える歌が出来たら…、という希望を知りました。しばらくして、以前から何かとお世話になっている平野先生にお目にかかり、詩集をお渡しするとともに、両親の希望もお話ししました。私自身一曲だけでも、という気持ちでした。
 その後しばらくは、自分の忙しさにまぎれて、この事は頭からはなれていました。ところが、平野先生から、「ひとりぼっちの夏」の中から、愛をテーマにして組曲を書いてみたいとのお話しがあり、本当に驚きました。それと同時に、保彦の身内の一人として、それほど入念にこの遺稿集を読んでくださった平野先生に、本当に頭の下がる思いでした。
 ところで、合唱団「たちばな」の諸君とのおつきあいも、もう五年目になります。彼等とは、これまで、指揮者と合唱団員というより、合唱を愛する仲間としてつきあい、楽しいステージを創ってくることが出来ました。指揮者という立場で見れば、音楽的にはまだまだ未熟な合唱団ですが、彼等の音楽に対する熱意だけは信じられるものだと思っています。これまで、選曲に関しては、団員の自主性を尊重し、彼らの唱いたいと思う曲を取りあげてきたつもりです。今回、平野先生からこの組曲のお話しがあって、私としては初めて「たちばな」の諸君に、この曲をやらせてほしいとお願いしたところ、快く同意してくれたのです。そればかりでなく、改めて「たちばな」から平野先生への委嘱作品としてお願いするという形をとってくれた事に、指揮者としてでなく、保彦の身内として、「たちばな」の諸君に感謝したいと思います。
 遺稿集「ひとりぼっちの夏」は、保彦の成城学園時代からの詩と、病気と闘いながら書きつづった日記とを中心に構成されています。見方によっては、あまりにも刹那的に生きた一人の若者の馬鹿げた愚痴とも言えるかも知れません。けれども生前の彼を知る者には、自分の死を予感するが故に、いつも誰かを愛し、その愛故に、自分自身の存在(=生)を確認しようとしていたとも思われます。
第一曲「星」、若者特有の迷いだけではなく、そんな自分への迷いを感じるのです。
第二曲「君はレイラ」、恋の真最中、つかめそうでつかめない気分屋さん、そんな彼女を風にたとえたのでしょう。
第三曲「深紅のバラが朽ちる…」、若者の恋の悲しい結末。どちらからともなくはなれ、彼女への想いも醒めていきました。
そして、終曲「ひとりぼっちの夏」、愛も終わり、病室に一人死と向い合い、のがれようもない孤独と闘いながら、尚自分の生を求める若者の姿があります。
 私は、本日この曲を初演するにあたって、単にひとつの愛の始まりから終わりまでの話ではなく、限られた時間をけんめいに生きた、あるいは生きようとした若者の姿を、少しでも感じていただければと思います。最後に、保彦のつたない詩の中から、素晴らしい曲を創ってくださった平野先生と、喜んで初演を引き受けてくれた「たちばな」の諸君に、保彦の両親ともども、もう一度心から感謝したいと思います。

合唱団「たちばな」常任指揮者  岡 本  俊 久


曲目紹介
島 よ
 第四回演奏会の「風と花粉」(伊藤海彦作詩、大中恩作曲)に引きつづき、今回も両氏による曲を取りあげてみました。力強く整った伊藤海彦氏の詩の構成と、それに深い感銘を受けた大中恩氏の曲とが、私たちの心を虜にしたからです。
 一曲目、冒頭のハミングから始まり、遠くに波に乗るように聞こえてくる「島よ」の調べ。二曲目、三曲目では、“静”と“動”、“柔”と“剛”が華麗に調和し、「島」のシルエットが浮かび、ふくらんできます。四曲目の、こみあげてくる情熱を思わせる“動”、五曲目の、ひとときの安らぎを思わせる“柔”。そして、終曲に、伊藤海彦氏の思いがこめられています。
    島よ
    おまえは 私ではないのか
    散り散りの 人という名の
    儚ない島 −
    私ではないのか
 一人の男がいます。男は、決して答えることのない、それでいて人間の宿命を全て担っているかのように見える「島」に、幾度も問いかけます。自分に問いかけるように −
    島よ おまえは −
(松島)

愛のプロローグ
 この組曲は谷川俊太郎の「空に小鳥がいなくなった日」をテキストとして、日本合唱協会の委嘱で作曲されました。今年(1983年)1月の出版に際し、全曲に手を加え、同時にタイトルを初演時の「空に小鳥がいなくなった日」より「愛のプロローグ」と改題したものです。
 第一曲「ひとりぼっちの裸の子ども」、軽ーく聴いてください。軽ーく歌いますから。第二曲「かなしみについて」、詩におんぶされているような曲。この曲のヌワッとしたリズムが快感なのです。第三曲「からだの中に」、言葉のリズムが面白い。そして曲自体もまた良いんですねえ。第四曲「じゃあね」、さてこの曲に「じゃあね」という言葉は何回出てくるでしょうか。正解は75+1回です。− じゃあね。
(秋吉)



合唱団たちばなに入ると……
得るもの:友だち、愛情、愛嬌、度胸、食欲、スキーの技術
失うもの:音感、常識、地位、名誉、学業成績、まじめな友人
(注1)以上は最大公約数にすぎません
(注2)先天的要因による人も一部おります。

恐れることは全くありません。あなたも一度、練習をのぞきにいらっしゃいませんか?


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