プーシキン(1799〜1837)は18世紀末、ロシア中流貴族の家庭に生まれました。彼は、幼少期から文芸に非凡な才能を顕し、妻の愛人との決闘で亡くなるまでのわずか38年足らずの間に、国民的詩人・作家としての名声を確立するに至りました。彼の作品のうち『ルスランとリュドミーラ』『ボリス・ゴドゥノフ』『エヴゲーニィ・オネーギン』『スペードの女王』『金鶏』などはチャイコフスキーらにより、オペラの原作として取り上げられ、今日世界中で上演されています。
今回の詩のうち「夢見る人」「めざめ」は16〜17歳の学生時代に、また、「冬の朝」は、28歳(女性に求婚を断られた頃。その女性は結局彼の妻となり、彼が落命する決闘の原因となるのだが…。)の時に創作されました。いずれの詩にも春間近の雪原の煌めきや厳しい冬の嵐、暖かく燃える暖炉などの風景が描かれていますが、そこには人々の生活や作者の多感な青年期の心理が巧みに投影されています。そしてまた作曲者も、牧歌的で素朴な風景に重なる青年の希望、苦悩、優しさなどを楽譜に巧みに描き出しています。ナポレオンのモスクワ遠征からそう遠くない頃と言えばやたらと歴史じみてきますが、そこに生きていたのは現代の私たちと極めて近い感性をもった人々であったことを改めて感じさせてくれる作品です。
(合唱団たちばな委嘱作品・初演)
プーシキンの詩による合唱作品への作曲は、もう20年近く前からの構想であります。青春の詩に歌を付けるという事、これは意外にむずかしいものです。青春を乗り越えた現在、ようやく実行するに至りました。初演者、岡本俊久指揮混声合唱団「たちばな」の皆さんにはとても苦労をかけました。ここに感謝を申し上げます。
(遠藤 雅夫)