J.S.バッハ以前のドイツ・オルガン音楽の最大の巨匠といわれるディートリヒ・フクステフーデは、その若々しい情熱と劇的かつ幻想的な作風によって、若いころのバッハに絶大な影響をおよぼした。リューベックの聖マリア教会のオルガニストであった彼はその職務に加えて、〈アーベントムジーク(夕べの音楽)〉という名の教会演奏会を飛躍的に発展させた。1705年末には若きバッハもリューベックを訪れ、彼の演奏を聴き感銘を受けている。その折、ブクステフーデの娘と結婚することを条件に、聖マリア教会の後任オルガニストになることを勧められたという逸話も残っている。
彼の現在に伝わる作品273曲のうち、オルガン曲が90曲であるのに対し、声楽曲は135曲を数える。それらはバッハの教会カンタータが生まれる前のありとあらゆる形式を示し、その形式の多様さと深い情緒ゆえに、バッハ以前のプロテスタント教会音楽の頂点と考えられている。
クリスマス・カンタータBuxWV13は短調の響きのなかに、抑えきれないクリスマスの喜びと信仰への深い心が感じられる曲である。バッハの作品と聴きくらべてみるのも一興であろう。
川上裕美子