ディートリヒ・ブクステフーデは、北ドイツで活躍した音楽家で、とりわけ生前はオルガニストとして名を馳せていた。
1705年、そのオルガン演奏を聴きに二十歳のバッハがアルンシュタットからリューベックまで、400kmの道のりを徒歩で訪れたというエピソードが残っているほどだ。
《新たに生まれしみどり児》は、正確な作曲年は不明だが、1680~1685年の筆者譜が伝えられていることからリューベック時代の作品である。
オルガニストだったブクステフーデの100曲を超える声楽作品が、どのような目的で書かれたのかもはっきりとはわかっていないが、教会の礼拝で演奏されたのかもしれないし、
「夕べの音楽」やプライヴェートな集まりで演奏された可能性もある。
この新年のカンタータの歌詞は、キリアクス・シュネーガスの賛美歌(1597年)。ブクステフーデはこの有節のテクストを「通作」した。
つまり、それぞれの節に(多かれ少なかれ)異なる音楽を付けている。各節の間に挿入されるヴァイオリン3本、ヴィオローネ・ファゴット、そして通奏低音という器楽によるリトルネッロも魅力的で、協奏風の印象を与える。
高野 昭夫(Bach-Archiv Leipzig)