ミサ曲とはカトリック教会の典礼で用いられた声楽曲を示す。テキストはキリエ、グロリア、クレド、サンクトゥス(ベネディクトゥスを含む)、アニュス・デイからなる。そして今挙げたそれぞれの章を短く歌ったミサ曲のことをミサ・ブレヴィス(小ミサ曲)という。
ザルツブルクのコロレード大司教の下でW.A.モーツァルトが作曲したミサ・ブレヴィスKV192やKV194は、その形をとる。なぜなら、この時期モーツァルトが勤務していたカトリック大聖堂では約45分以上のミサを演奏することを禁じていたからだ。
本日歌われるこの作品は、モーツァルトの初期の名曲である。
バッハのBWV233~BWV236は一般的にミサ・ブレヴィスと呼ばれることがあるが、彼はルター派の作曲家であったため、今日歌われるこの曲はミサ・ブレヴィスとは異なる作品だ。ルター派教会においては、ミサ曲といえばキリエとグロリアのみからなるものを意味するからである。
1723年からJ.S.バッハの活動拠点であったライプツィヒでは、モテットは結婚式や葬儀など、特別な礼拝のために用いられた。BWV226とBWV229はどちらも葬儀のために書かれたモテットであることが最新の研究で確定視された。
BWV226は、トーマス学校長J.H.エルネスティの葬儀のために書かれたもので、1729年10月20日にトーマス教会で演奏された。歌詞は曲の開始部と中間部は新約聖書のローマの信徒への手紙が、曲の終盤はM.ルターのコラール「来たれ、聖なる霊、主なる神よ“Komm, Heiliger Geist, Herre Gott”」の第3節が基となっている。
BWV229は、1731年もしくは1732年に書かれたものである。歌詞はP.テューミヒ作の葬送歌が基となっている。基になった歌詞が埋葬のために創られたものなので、BWV229が残された人への慰めのために書かれたものである。この曲に関するオリジナルの楽譜が残されていないため、正確な作曲年代と経緯についてはまだわからない。
レクイエムとは、カトリック教会や英国国教会で執り行われる死者のためのミサである。形式としてはミサ通常文と固有文からなるが、グロリアとクレドは歌われない。
WAB 39の番号がつくレクイエムは、A.ブルックナーが1849年に作曲し、晩年1892年に改訂された。ブルックナーの人生は常にキリスト教音楽と共にあったといっても過言ではない。しかし、現存するなかで完成されたレクイエムはこの曲のみである。作曲動機は、彼の友人で同僚であったフランツ・ザイラーの死にあたって書かれた。しかし演奏されたのは彼の一周忌のミサのためである。
この作品は先に述べたモーツァルトのKV194と同じく、合唱に対してヴァイオリンが独立している箇所が多く古典的な手法で書かれている。ブルックナーの初期の傑作とみなされており、晩年に改訂していることから彼自身もこの曲に特別な思いを抱いていたことがわかる。
バッハ資料財団ライプツィヒ国際広報官・一般社団法人日本バッハ協会代表理事 髙野 昭夫