モテットは13世紀に発祥して以来変遷してきたが、バッハの頃は宗教的な歌詞をもつア・カペッラ(無伴奏の合唱曲)のことであった。5声のために書かれた「イエスよ、我が喜び」は、バッハがトーマス教会のカントルに就いた1723年に作曲された。この頃のバッハは、埋葬音楽の注文を受けて作曲し、稽古をつけるという職務も担っていた。このモテットも、ある「中央郵便局長未亡人」の葬儀に際して歌われたもので、曲の作りは既存の教会歌の歌詞を使ったコラールの部分と、聖書の言葉の部分が交互にあらわれるようになっている。
東京音楽大学・同付属高等学校講師 下道郁子