故 冨永岳夫 氏

昭和26年、東京品川に生まれる。幼少よりピアノを習い音楽に親しむ。
昭和46年、武蔵野音楽大学に入学。コントラバスを檜山 薫氏に師事。在学中よりN響・日フィル・読響等各オーケストラにエキストラとして数多く出演する。
昭和52年、同大学院修了後、スイスのメニューイン室内楽アカデミーに留学。洗練された音楽性に高い評価を得る。その後、横浜で神奈川フィルハーモニー管弦楽団の創立に当初より参画。首席コントラバス奏者として活躍する。
室内楽では、昭和53年アンサンブル・アルス・ノヴァに入団、内外の著名な演奏家と共演する。後に代表を務める。
昭和56年、長い歴史を持つ古典室内合奏団に入団。また、横浜国大管弦楽団の低弦トレーナーとして20余年、熱心に指導にあたった。神奈川フィル退団後は室内楽を中心とした演奏活動に情熱を燃やしていたが、平成12年5月、突然の病にて、死去。(49歳の若さであった。)


ごあいさつ 故冨永岳夫氏を偲んで

 本日は、東京オラトリエンコール第8回演奏会にお越しくださいまして、ありがとうございます。
 おかげさまで、私たち東京オラトリエンコールは、結成から8年になろうとしています。そして、今日を含めて8回の演奏会では、毎回アンサンブル・アルス・ノヴァの皆さんに共演をお願いしてまいりました。
 そのアンサンブル・アルス・ノヴァの代表であり、コントラバス奏者の冨永岳夫さんが急逝されて、もう2年余りが経ってしまいました。彼はいつもその暖かな笑顔と力強く、かつ、柔らかな音で、私たちの合唱を支えてくれました。そのことは、合唱団の団員たちも充分にわかっていたのでしょう。今回の演奏会の選曲にあたり、彼を偲んでモーツァルトの「レクイエム」を取り上げたいとの私の提案に、反対の声はありませんでした。
 そして今日のもう一曲、バッハの「カンタータ4番」ですが、この曲は冨永さんと、近々一緒にやりたいね、と話していた曲なのです。「レクイエム」と一緒にやるのはちょっとおかしいのでは?とのご意見もあるかとは思いますが、私と冨永さんの宿題を今日この機会に済ませたい、という思いから取り上げさせていただきました。
 私と冨永さんとのお付き合いは、[コーロ・ヌオーヴォ]で20年以上、[合唱団さきたま]でも10年以上になります。直接お会いする時はいつも仕事の現場ですから、ゆっくりお話する間もありませんでした。しかし、打ち合わせの電話では、要件が済んだ後も30分、1時間と、とにかくよく話をしました。そんな中で、器楽奏者の気質、練習の要領など、色々なことを教えていただくことができました。そんな話ももう出来ないことが、残念でなりません。
 本日は、先に挙げました二つの合唱団[コーロ・ヌオーヴォ]と[合唱団さきたま]の両団から、今回の演奏会の主旨に賛同してくれた有志のメンバーも、共にステージに立ってくれます。お世話になった三団のメンバーが冨永さんを偲びつつ、心からの演奏をしたいと思っています。

冨永さん、
 ありがとうございました。

東京オラトリエンコール コーラスマスター  岡本俊久


 長くアンサンブル・アルス・ノヴァのコントラバス奏者であり、その運営者でもあった冨永岳夫氏が突然この世を去って、早くも2年が経ってしまいました。信州のスキー場でご本人も全く予期しなかったであろう心臓障害に襲われて、あっと言う間に逝ってしまわれました。
 僕は冨永さんとは主にアルス・ノヴァを通して、この20数年間に沢山の演奏を共にしました。その大部分はお互いコンティヌオ族の一員同士として演奏するというものでした。コンティヌオというのは、合唱に於けるバス声部を、オルガン(或いはチェンバロ)の左手部分と、チェロ、コントラバス、そしてファゴットの4種類の楽器が同じ旋律を、常にユニゾンで演奏するグループです。時にオルガンとチェロだけであったり、4つ全部一緒であったりで、様々に組み合わせを変えながら響きに変化をつける操作を楽しめるグループでもあります。緻密で繊細な中・高音域の楽器や声の動向を冨永さんは早く感知して、言葉で打ち合わせをするという方法ではなく、演奏を通して、いわゆる瞬間芸で、よく僕に伝えてくれました。それは強引ではなく、幅のある演奏で示してくれるのでとても居心地のいいものでした。お陰で、楽しい“ブレンドごっこ”が出来ました。
 アンサンブル・アルス・ノヴァは、富永さんが限られた時間の中で、少ないお金に圧迫されながら、手弁当で切り盛りをやり続けて頂いたことで存続していました。さらに加えて、良質の音を維持できていたのは、冨永さんの感性と人格に負うところ大でしょう。2年前の春、存亡の危機という大混乱が確かに訪れました。しかし、冨永さんの長年のコントラバス仲間であり、親友でもある大西雄二氏の存在が危機を救いました。冨永さんが残した運営記録等の資料を解読しながら、彼は見事に冨永方式による運営を復活しています。大西氏への縁もそうですが、冨永さんが繋ぎ続けていた各方面への糸を上手に手繰ることが出来れば、アンサンブル・アルス・ノヴァは大丈夫ですよね?

冨永さん、
君がやさしく、暖かく存在していたこと、
そしてその君と一緒に演奏を沢山した喜びは、
僕は永久に忘れることはありません。

アンサンブル・アルス・ノヴァ ファゴット奏者  前田信吉


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