バッハの全創作は宗教改革という基盤の上に立っていて、ルターなくしてはバッハを考えることができません。それだけにルターの言葉とバッハの音が結びついて一体化された場合にこそ、宗教改革の精神が明瞭に現れるのです。このカンタータ4番BWV4『キリストは死の縄目につながれたり』は残された声楽作品のうち唯一、最初の楽章から最後の楽章までルターの言葉だけで作られています。
キリスト教の最も重要な祝日である復活祭のために書かれたと考えられるこの曲は、ライプツィヒにおいて1724年4月9日と翌年4月1日の復活祭に演奏されています。バッハはルターによる7節の宗教詞句を7つの楽章に当てはめ、同一のコラール旋律をもとに、一曲の長大で典型的な「コラール・カンタータ」に書きあげ、厳粛で緊張感にあふれた音楽によって、『復活』とその前提にある『受難』への考察を繰り広げます。
弦のシンフォニアによって導入された曲は、第1節(合唱):で『キリストは死の縄目につながれたり』とソプラノにより定旋律が提示され、第2節(ソプラノ・アルト):『死の国』、第3節(テノール):『死の死』、第4節(合唱):『死と生命の争い』、第5節(バス独唱):『十字架の犠牲』ときわめてリアルで精彩に富んだ、絵画的な描写で展開します。そして第6節でソプラノ・テノールの2声部により、付点のリズムに彩られた祝祭の喜びをカノン風に歌い、第7節では、合唱で復活祭の深い喜びと賛美がしみじみと歌われて終ります。
川上裕美子