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Program Note


ブラームスのオルガン作品

 ブラームスにとってオルガンは、積極的な作曲の対象と言うよりは、バッハ以前の古楽への興味(ブクステフーデやG.ムファットの作品を研究していた)と、オルガンが得意とする対位法への関心を満たすためのものでした。
 オルガン作品は、1856年から57年にかけてと1896年の2つの時期に書かれ、いずれも親密な関係にあったシューマン夫妻の動向、特に夫人クララに起きた重要な出来事と密接に関係しています。
 バッハに傾倒していたシューマンは、クララと「平均律クラヴィーア曲集」を研究し、さらにバッハのオルガン作品を研究するため、ペダルフリューゲル(足鍵盤付きピアノ)を持ち、 「ピアニストはオルガンを弾く機会を逃してはならない。なぜなら不明瞭、不適切なことがあからさまになるから」と言っています。
 1854年、シューマンが精神を病んでいたとき、クララがブラームスに「ロベルトが回復したら、オルガンを聞かせるために、これからオルガンを練習する。」と言ったのをきっかけに、 ブラームス自身もオルガン演奏を独学し、1856年から57年に"作品番号なし"の作品群を書きました。クララに捧げた「前奏曲とフーガ イ短調」はクララ所蔵の楽譜の中から見つかり、 1927年ブラームス全集の出版でようやく公開されました。 また、「おお悲しみよ~」の作曲は、1856年のシューマンの死と直接関係があるだろうと言われています。 コラール(ドイツ、ルター派教会の讃美歌)の旋律は、前奏曲では、ブラームス自身が指定した"コルネ"という音色(3度の倍音を含む特徴的な音)でソプラノに歌われ、フーガではバスのリード管で歌われます。 このフーガは冒頭からいきなり、ため息のモチーフを伴うテーマの正行型と反行型が現れ、凝った対位法技法を披露しています。
 「装へ~」は、ブラームス最後の作品「11のコラール前奏曲集」の一曲です。Op.122は1896年のクララの死の年に書き下ろされ、1902年に出版されました。 1649年クリューガー作のこのコラールには、美しい旋律のためか、時代を問わず多くの作曲家によって作品が残されています。特にバッハのBWV654は、メンデルスゾーンが好んで各地を演奏して回り、バッハ復活に一役買いました。 ブラームスのものは最早凝った対位法は見られず、コラール旋律がなんの装飾もされずに、ソプラノで1度歌われるのみですが、シンプルな美しさでは群を抜いています。

小林 英之


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