東京という街は、次々と私の妄想を刺激する事件の続く処です。 公団住宅を追われて4年間も路上の車の中で生活していた老夫婦がひっそりと車中で死んでいたのは、あれは確か江東区のお話でした。江東区は千葉県と接する東京の東の下町。今回はニュータウンと呼ばれ、何やら"ニューファミリー"等とむず痒いキャッチフレーズで呼ばれる事の多い世代の住む街・・・東京は西の郊外、多摩ニュータウンの造成地で物語は始まります。 工事現場の配電設備用に開けられた穴からの腐臭に不審を抱いた作業員によって発見されたのは、紙おむつをした老婆の死体。床ずれの跡から寝たきりと思われたこの老婆の死体は、解剖によっても死因がハッキリしない。自然死と思われたこの老婆の死体遺棄事件については、身元が判明すると同時に、犯人も直ぐに判明した。68歳のこの老婆の死体を遺棄したとして逮捕されたのは、54歳の自動車整備工の内縁の夫と呼ばれる男だった。この男女は、この1年間車の中で同居していたという。 ここから、私の心は激しく波立つ。 まず、54歳と68歳の男女という、初老と呼ぶにもいささか心もとない男女の関係と、車の中でペットの犬と同居していたという、彼らのこの1年の生活ぶりに、やりきれない思いと共に、現代に生きる人間の孤独の質について改めて考えさせられる。 移動する密室としての車の利用価値について、ここのところ続く老人達の執着には、何か不吉な予感の様なモノを感じます。 新宿の段ボールの家で過ごす男達は、みな孤独だが、その孤独を共有する連帯感の様なものが彼らにはあります。しかし、こうした車の中で孤独に死んでゆく老人達には、ほとんど絶望的なまでに孤立した魂の匂いがします。外界から遮断された車の中で濃密になってゆく関係・・・その裡に深く沈み、人知れず路上で死んでゆく人間達の心の闇に、私は戦慄する。 何故かアパートを借りることもせず、車の中にペットの犬と一緒に女を乗せ、日々通勤する男。寝たきりになった女を、それでも車の中で世話しようとする。紙おむつを買い、女の下の世話をしながら、秘かに己の欲望を満足させる男と、まるで無感動に男を受け入れる女。それは、男と女のSEXというよりも、なにか・・・贖罪のための苦痛に満ちた宗教的儀式のようにすら思えます。星あかりすらない闇の中で見た私のまぼろし−−−全ては新聞記事の中から妄想した、一瞬のイメージに過ぎないのかもしれません。その幻想に魅了されているのか、嫌悪しているのか、どちらとも答えられない私自身もまた、闇の中をひとり歩いているのかもしれません。
現代人の孤独には、テクノロジーによって増幅された、一種名状しがたい痛ましさがあります。生き続けることの苦痛、生かされていることの絶望。ただ生きること、"無目的な生"を許すほどに成熟した我々現代人は、その"無目的な生"を生きなければならない事の恐怖に、やっと気づき始めたのかもしれません。
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