デーテーペーな1日

7月26日(Fri)
5才の冬、孤独な目覚め

 冷たい感触で目が覚める。

 まだ空は完全には明けず、窓の外は夜の気配が色濃く残っていた。しかし、前後に振り分けたカバンの中の牛乳瓶をかちゃかちゃ鳴らしながら、坂道をよろよろと登る牛乳配達の自転車が窓の外を通り過ぎていく。あぁ、もうすぐ両親は目を覚ましてしまう。幼い焦燥感に急かされながら、傍らで眠る母親の様子を僕はそっとうかがう。



 ここの処、僕は毎日"おねしょ"をしていた。ぐっしょりと濡れた布団と下着の不快感で目覚めたまま、僕にはどうすることもできなかった。冷え切った布団の中で、濡れた下半身の事よりも、これから母親が起きてからの毎日のくり返しに、心の底からおびえていた。
 まず、白く息が凍る部屋で裸にされると、濡れたシーツを剥がすことを言い渡される。凍えた5才の指では、ホックのついたシーツから布団を抜き出すのがひと苦労で、何度も失敗する。とても泣き虫な子供で、もうこのあたりからどうしても涙を止めることができない。シーツを剥がし終えると、布団を物干しに干すように言われる。物干し台は外からよく見えるので、裸で出るのはイヤだと僕が言うと・・・アパート中に響きわたるような怒声と苦痛に僕は飲み込まれる。
 最初の頃、僕はなぜこんな仕打ちを受けなければいけないのか、傷つけられたプライドに、反抗的に母親を見返す事があった。その目つきはなんだ、と、一層つのる母親の怒りに触れた僕は、全身コナゴナになるまで自らの「悪い性格」を思い知らされることになる。父親は母親の剣幕になにも言わず、黙って仕事に出ていく。後には、ひたすら恐怖する僕と母親だけが残される。
 いまだにあの頃の事を夢にみることがあります。幼い僕が、部屋の隅で声を上げずに泣いているのを、母親がずっと見おろしているという夢です。僕にとっては、繰り返し見る悪夢です。
 布団を濡らさないように畳の上で寝たいと言っても、彼女はそれを許さなかった。まるで、おねしょする僕に、自らのあらゆるうっぷんをぶつける為だけにそうしていたかのようだった。もちろん寝る前にはなにも飲まずなにも食べず、できる限り遅くまで起きていようとするのだが、いつしか眠ってしまう。何やらトイレに立っている夢のなかで、あぁ、ここでおしっこしたらダメなんだ、おねしょしちゃう・・・そう夢の中で叫ぶ自分がいるのだが、まるで映画を見るように、もう1人の自分はトイレに入っていく後ろ姿をぼんやりと眺めるている。


 そして僕は、孤独な夜明けに目覚めたまま、5才の少年にはまるで不釣り合いな諦念と孤独に浸されながら、ただじっと朝の訪れをまっていた。

 実は、本日はどうしようもないほどの自閉ネタです。ある方へのメールがきっかけですが、決してその方のせいではありません。サディストは、マゾヒズムへの深い理解なしには自らを楽しむことはできません。そう、自らが好んで溺れるのが、マゾヒストの特徴であるとするならば、全ての原因はこの私の嗜好の中にこそ存在するのかも知れません。フィクションであるとの断り書きはやはり必要なのでしょう。


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