休み時間中の学校の廊下で、なぜかその子のまわりだけを避けるように、人の輪ができていた。しかし、壁にもたれて文庫本を読んでいる彼女の横顔には、孤独な影はあっても拒絶する冷たさは僕には感じられなかった。整った顔立ちの美しい少女だった。背中の真ん中辺りまでのばした髪はきれいに切り揃えられ、窓越しの風に微かに乱れるその長い髪を左手でかき上げるしぐさがひどく大人びて見えた。 隣の同級生の男が彼女の名を教えてくれた。1年後輩で今年入学したばかりだが、つい最近、どこかのミス・ティーンコンテストで準優勝して、学校中の男達の間で評判になっているらしい。かなり生意気で同性の評判はひどく悪いのだが、その事も含めて男達の注目を一身に集めているようだった。 その同級生はコンテストの模様が掲載された週刊誌も持っていた。何人かの少女と並んだ水着姿の彼女が挑発的にカメラに向かって笑っているスナップが数点と、簡単なプロフィール紹介が何行か。好きな作家に「ウィリアム・バロウズ」を挙げる彼女の気負いが微笑ましくて、僕は彼女のことが気になりはじめる。 二度目にあったときも彼女はひとりだった。 しかたなく駆り出された運動会の二人三脚・・・適当にその場で異性同士でペアを組むのだが、なぜかあぶれたのが僕と彼女だった。その当時から、はぐれ者の予感がお互いにあったのかもしれない。担当の教師から渡されたテープで彼女と僕の片足ずつを縛るのだが、彼女の素足の感触に、僕は秘かに勃起していた。 「私、あなたの事知ってます。」 なぜ? 「だって、新聞部ですよね?」 確かに当時の僕は新聞部に所属していたが、学校新聞発行するわけでもなく、ただ、なにやら怪しい思想にかぶれて、部室で毎日議論するだけの新聞部員だった。 で、二人三脚の結果はどうだったのか?結果については忘れてしまったが、意外なほどに一生懸命に走る彼女の息づかいだけは今でもハッキリ覚えている。
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