孤独な少女と孤独な記憶(1) 孤独な少女と孤独な記憶(2) 耐えきれずに途中で椅子を立ってしまった自分自身に腹を立てているようだった。映画雑誌の過剰な惹句にひかれてみても、中身は男と女のからみシーンが延々と続くだけの退屈な映画だったことに、僕自身もうんざりさせられていた。 正面を向いたまま決してうつむかず、顎をあげて歩く彼女の後ろ姿はとても美しい。小柄だがバランスの取れた姿態に、大人びた黒のタイトスカートが良く似合っていた。足早に歩き続ける彼女が振り向くと、いったん立ち止まり、僕の右手のひじの辺りを小さく掴む。彼女が僕の身体に触れたのはそれが初めてだった。 「私の家で珈琲でも飲みませんか?」 冷たい彼女の掌の感触・・・少し震えていたかもしれない。 アパートを借りてひとり住まいしているらしい。何か事情がありそうだが、込み入った話をする事の苦手な僕は、その事について何も尋ねることはなかった。そう言えば、彼女の住所も電話番号も僕は知らなかった。一方的に彼女から連絡があり、どこかで待ち合わせるのが何時ものことだった。 今日の彼女はなぜか無口だった。1DKのアパートは、年若い少女の部屋には似つかわしくない天井までの本棚とベットと机以外、ほとんど家具はなかった。 「ごめんなさい、珈琲お誘いしながら、インスタントしかないんです。」 それで充分。珈琲を味わって飲む時間じゃないしね。 椅子のないその部屋ではベットが椅子がわりで、傍らの机の上に珈琲カップを並べる。 ベットの上に並んだ彼女の肩をそっと抱く。目を閉じた彼女は自分からそのまま後ろに倒れこみ、僕はおおいかぶさるように彼女に口づけする。彼女の心の葛藤そのままに、僕を強く抱きしめたかと思うと身体を硬直させて激しくあらがう。その度に僕は彼女を抱く腕の力を抜くのだが、決まって彼女から一層からだを密着させてくる。
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