デーテーペーな1日

6月29日(Sat)
思いがけず続いてしまった日記。連載日記???意味不明な方のためのバックナンバーはこちらです。

6/25 13才の夏、人を愛することの恍惚
6/26 13才の秋、人を愛することの悔悟
6/27 14才の冬、人を愛することの絶望
6/28 14才の春、人を愛することの喪失


19才の春、人を愛することの錯誤

 何年ぶりかで故郷に戻った。生きることに耐えられなくて出た筈の街に再び帰ってきた事は、挫折した人生をもう一度くり返すことを意味していた。なんの感動もなく、女々しい感傷的な気分で街をさまよう。あらためて独りで住んでみると、とてもちっぽけな街で、よく知人に出会った。そんな時、僕はまるで相手がこの世に存在しないかのように、相手の視線を通り越した向こう側を、定まらぬ目で眺める。無視以上に冷たく拒絶する僕の目に、誰も声をかける者はいない。しかし、中にはまるで僕の視線を意に介さぬ人間もいた。懐かしそうに名前を呼ぶと、道の真ん中で立ち止まって、次々とかつてのクラスメートの消息を僕に教える。その中に彼女のこともあった。突然の転校と、それに続く消息ははじめて聞くものだった。
 となり街の叔父の家から中学と高校を卒業した彼女は、いまはこの街で務めているという。彼女の妊娠と中絶についてもその時はじめて知った。もちろん噂でしかなかったが、僕には思い当たる事が多すぎる。
 僕もよく知っている喫茶店に務めているという。その消息を聞かなければ、僕は彼女に再び会うことはなかったのかも知れない。いや、あいまいな"運命"に責任を押しつけるのはやめよう。自己憐憫と愚かな記憶に背中を押されて彼女に会ったことが、全ての原因であり結果だった。

 広い芝生に囲まれ、ガラス張りの店内がよく見える通りに立って、僕はじっと彼女をみていた。何年ぶりかでみる彼女の横顔・・・透き通るような白い肌と、客席でみせる暖かい笑顔は以前と同じ彼女だった。しかし、時折のぞかせる疲れた表情と、放心したように壁にもたれて客席を眺める彼女の様子が少し気になる。
 ガラス越しの彼女と目があった。なぜか誰もいない後ろを振り返る彼女。もう一度僕をみると、小脇に抱えたトレーをカウンターに置いて外に出る。僕の前に立った彼女は、灰色のロングスカートに白いブラウス、生成の木綿のエプロンをして、本当に少女のように見えた。
 何を話せばいいのか・・・黙っていると、彼女は僕のズボンのポケットのあたりを小さくつまんで、僕を促して歩き始める。仕事はどうするのかと聞いても、彼女は何も答えない。そのまま通りを渡り、人気の少ない神社の境内をずんずん歩いていく。今度は僕のシャツの袖口を掴んで歩く。まるで幼い子供と一緒の散歩のような気分で、僕は何となく笑ってしまう。
 まだ彼女は一言も僕に話しかけない。ずいぶん歩いた。どこに行こうというのか?そう彼女に尋ねようとして、僕はやっと気がついた。それは、あの丘の上にある公園だった。まだ子供たちが遊んでいる夕暮れ間近の公園を横切って、丘の上に向かう。
 はじめてKissしたベンチは同じところにあった。ふたり並んで座ると、彼女が僕の袖口を離し、はじめて昔の暖かな笑顔で笑いかけた。
 妊娠のことを尋ねても黙りこくってしまう彼女に、それ以上辛い記憶を強要することは僕には出来なかった。何年間かのブランクを埋めて、僕たちは13才の過去に戻れたような気がした。純真で誠実な13歳の記憶。もはや汚してしまった僕の記憶と、いまもそのままのような彼女に出会えた僕は、癒しの海でただようクラゲのように、彼女の温かさにつつまれていた。
 その夜、彼女が求めたからと、自分自身に言い訳しながら、やはり僕は彼女を抱いた。どこまでも愚かで卑怯な男だった。叔父の家を出て一緒に住みたいと彼女が言ったとき、やはり住むべきではなかったと、今頃後悔することになんの意味もなかった。 

 現実から離れることで容易に書き進めることができます。誰かを裏切る結果になっているかも知れないことが気がかりですが、私の日記を100%ノンフィクションと考える方がいるようなので、あえてそう書きましょう。やはりこれを告白と捉えるのは正しくありません。姑息な手段ではぐらかし、時間軸を入れ替え、登場人物をあえて混同するような操作をして書き続ける日記は、あくまでも仮想世界の僕の告白なのです。かといってこれを純粋な小説と呼ぶのもいささか無理があるでしょう。あえて言うなら、私小説と呼ばれるようなものを発表する作家の作品は、豊かなストーリーで展開するエンターテイメント以上に嘘が多いのかも知れません。自己を矮小化し、自らの愚かしさをくり返すとき、それは、あらゆる手段を講じて自らを美化し、正当化する為であり、誰かに向けたくり返しの怨念だったりするのです。
 さて、ここまで書いて、あなたはこの日記がフィクションだと思われますか?それともただの愚かしい人間の安っぽいノンフィクションなのでしょうか?私自身が決めかねているような処があります。



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