思いがけず続いてしまった日記。連載日記???意味不明な方のためのバックナンバーはこちらです。 6/26 13才の秋、人を愛することの悔悟 6/27 14才の冬、人を愛することの絶望 6/28 14才の春、人を愛することの喪失 6/29 19才の春、人を愛することの錯誤 窓のない部屋は一日中、どこからも陽の差すことはなかった。なぜこんなアパートが存在するのか、そんな疑問に駆られるような部屋だった。入口の引き戸を開けるとじめじめとしめったコンクリートの床が続き、その突き当たりには共同トイレが左右にふたつ。左手に更にガラスの引き戸があり、それを開けるといきなり小さな流しがあり、ガスこんろが置かれている。右に行くと扉が三つばかり続き、もうここから先は一日中電灯を点けていなければならない。一番奥・・・これ以上の行き止まりはない、場所と時間のよどんだような部屋。そこが僕と彼女の生活の始まりだった。何一つ身の回りのものを持たずに来た彼女は、下着の替えさえなかった。近所のスーパーへ買物に出かける。何枚かの衣類と食べ物。さらには、日常の細々とした必需品を何点か買うと、もう僕の持っていた現金は底をついた。明日からもう少し真面目に仕事をする必要がある。彼女も近くの喫茶店に勤めにでるという。 昔の彼女のように明るい声で笑うことはなかったが、スーパーの買物袋を下げて帰るふたりは、何やら顔を見合わせて小さく笑った。あまりにもささやかな暮らしに、満足そうに微笑む彼女がとてもいとおしい。 務めにでた彼女が、疲れ切って帰ってくる日が多くなった。今度の職場はとても辛そうだ。一日中立ち仕事の上、人間関係がうまく行ってないようだった。 彼女の異常にはっきりと気づいたのは、その日が初めてだった。もちろん、その前から彼女の言動に、かすかな違和感と"ずれ"を感じてはいた。しかし、僕はその事に気づかない振りをしていた。 夜の8時すぎ、僕が帰ると、電気もつけない部屋の中央で、彼女が壁に向かってなにか話していた。開いたドアからもれる廊下の明かりの中で、彼女は僕に気づいた様子はない。どうしたのかと聞くと、彼女が大好きだったおばあちゃんが、テレビのニュースのなかで、僕たちのことをとても心配しているらしいと、真剣に答える。しかし、彼女の祖母は、もう何年も前に亡くなっていた。その上、僕たちの部屋にテレビはなかった。 彼女の狂気の兆候は、もう何週間も前から有った。 どうしても銭湯に行くことのできない彼女は、部屋にバケツを持ち込んで毎日身体を拭っていたのだが、ここの処、それすらも億劫がって、もう何日も身体が汚れたままだった。日に何度もSEXを望んで、飽きることがなかった。生理の時もいっさい躊躇することなく、汚したシーツを夜中に流しでそっと洗った。料理をしていてなぜか手の震えが止まらず、しばらく横になりたいと言ったまま、明くる日の夜まで、24時間以上眠っていたこともあった。 彼女の「SOS」のサインは最初から出ていたのかも知れない。心の平衡の傾きを知らせる彼女からの無言の悲鳴は無数にあった。他者の痛みに無自覚だった僕は、多少風変わりなところが昔からあった彼女の性格に全ての原因を押しつけて、真剣に考えることはなかった。 彼女が僕に突きつけた問いは、とても重い・・・彼女の病んだ全存在をかけて、僕に答えを求める。逃げ出すことだけはするまいと決めながら、僕に何ができるのか。 小さい頃のおばあちゃんの思い出をいつまでも話し続ける彼女を抱いた僕は、耐えきれずに口づけをして、彼女の声を塞いだ。 また今日も結末まで届かないまま、力つきてしまいました。もう今日は止めよう、明日は書くつもりはないぞ、と思いながら、結末を自分自身で見届けるために、やはりモニターに向かってしまいます。無理に翌日にひっぱっているつもりはないのですが、限られた時間内に書きあげる必要があって、自ずから一日の分量にはある限りがあります。あまりに長く考えつめるのが辛いということもあります。安易な結末にはしたくないとは、本人が一番思うことでもあります。しかし、難しい作業です。
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