あのスクランブル交差点というモノが僕は苦手です。四方の信号が赤から青に変わると、ドッと堰を切ったようになだれ込んでくる人波に、自分自身の一歩がふと止まりそうになるのです。まるで押しつぶさんばかりに寄せる人波に、うっかり交差点に取り残されてしまったドライバーの目には明らかな恐怖が浮かんでいるようです。 この地球上に溢れ返るホモサピエンスの行く末に、ハーメルンの笛やレミングの暴走を想い出して、何かしら不安になったりします。そして、紛れもなく僕自身もその一員なのだという事実にうんざりするのです。我が物顔で地上を覆い尽くすおびただしい人間達・・・古生代に繁栄を誇った恐竜達にしても、ここまでの爆発的な増殖を経験した種はありえないでしょう。 そして、ひとりひとりの人間の裡にはそれぞれの物語があり、思いがある。微笑ましい子供達の好奇心あふれる想念と、疲れ切った中年おとこのどす黒い疲労感に満ちた諦念。ささやかな欲望と愛情を分かつために歩くカップルの隣には、両手に下げた紙袋の重さに閉口しながら、今夜のねぐらを決めかねているホームレス。 そうしたモノが一気に路上に投げ出され、カオスのまま僕の周囲を取り囲む。生命の過剰さが僕を不機嫌にし、肩先を触れ合わずに歩くことの出来ない雑踏にうんざりする。立ち止まれば後ろから押され、前に進むために絶えず人波の切れ目を探して歩くことに更にイライラが募ります。 しかし、人混みで混雑する街というのはいつまで経っても馴れることがありません。普段は秘めている筈の「人間嫌い癖」な僕がむくむくと起きあがってきます。あぁ、ごく一部の方にとても辛くあたったかもしれません。申し訳ありません。怒ってないよね? 初対面の人間に声をかけるのはなかなか勇気のいるものです。特に癖のある人物であることが分かっている場合などはなおさらでしょう。先ほどからこちらをチラチラと眺めている青年がどうもそれらしい。うん、小さい頃の写真そのまま。しかし、面白いからもう少しほおって置くか。しまった!うっかり目が合ってしまいました。近寄ってくる・・・「あぁ、カワちゃん?どうもどうも、」
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