毎日、決まった時間に出かけて決まった時間に帰ってくるのは、ただ、私が怠惰なだけなんです。後ろ手に閉めたドアにもたれて靴を脱ぎはじめてやっと、私は一日から開放されたことに気がつきます。電車を乗り継ぎ、階段を登り降りして通っている筈の仕事場での事はほとんど覚えていません。たぶん退屈なだけだからでしょう。鋼鉄製のドアに守られたこの部屋の中の出来事だけが、唯一私の確かな記憶なのです。 何ひとつ家具らしい家具のない私の部屋で唯一目につくのが、手狭なダイニングをほとんど占領している巨大なアメリカ製冷蔵庫の影です。いつ買ったものか・・・あれは、確かあなたが、もう私とは会わないと言って電話を切ってしまった日の午後だったような気がします。まるで去っていったあなたの身代わりのように、唐突にこの部屋にやってきたのでした。無骨さのかけらもない優美なカーブと緩やかな直線のフォルム・・・低音でハミングするようなモーターの音が心地よい子守歌のように私の身体の奥深くで共鳴しています。そう、低いうなり声のようなその単調な振動のくり返しが私の就眠儀式のきっかけなのです。 その音と言うよりも振動を感じるため、私は立ったまま冷たい冷蔵庫の扉にもたれ、耳をおしつけてみる。 何重にも重なった基底音の低いモータの唸りと、たえず流れている水の音。どこかの回路がカチカチと切り替わる音や、ごぼごぼと泡だつ排水口のような響き。まるでそれ自体がひとつの生き物ででも在るかのように思える私は、いつものようにじっと耳を凝らしてみる。そう、巨大な冷蔵庫を抱くように両手を拡げ、ひんやりとした感触と確かな存在感を楽しんでいるかのように。ブラウスの下の乳首が私のからだと鋼鉄の扉に挟まれて、いっそう固く勃起する。密着させた下半身に伸ばした指が、私の敏感な部分をゆるゆると撫でる。身体の奥深いところで溢れはじめたものが指先を伝い、耐えきれない欲望に私は思わず声をあげてしまう。 遠い記憶の回路が繋がったことを意識する。そう、これからが私の就眠儀式だった。 あぁ、あなたはこんな処で眠っていたの?かわいそうに・・・こんなに冷え切ってしまって。 トレイの上のあなたの首はもうすっかり腐り果ててしまい、ひからびた瞼から流れ出た水晶体が、まるで巨大な涙のように私を見返していた。 本日もお仕事はお忙しかったようです。こんな日に限って、不明な日記を書き始めてしまうから、いっそう更新が遅れるハメになってしまいました。もう少し落ち着いて推敲してみたい気がするのですが、自分自身の決めたタイムリミットが来てしまったようです。もうこの辺で諦めます。
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