意外なところであなたの名前を見つけて、ふと自分自身の心の中を覗いたような気分がしました。 空っぽで、そのくせ何時までも濃厚な気配だけが残っている、廃虚とでも・・・廃虚の持つ、あの空疎な情念に満ちた気配が、私は好きだったのかも知れない。私の裡なる廃虚に吹く風の音に、ふいに白昼夢のような記憶が蘇る。そう、アンデスの聖なる祭壇について、ふと思うときがあります。 希薄な空気に悲鳴をあげ続ける肺と過剰な血流にぼんやりと痛む頭を抱えながら、私は石組みの階段を、ただただ登り続ける。長大な時間とおびただしい人々の行き来によって風化し磨滅した石段はすっかりもろくなり、私の足元で絶えず風のなかに飛散していた。振り返れば何一つさえぎるモノのない眺めがはるか山裾にまで続き、蛇行する川面がにび色にひかっていた。 蒼穹をめざす石段はいつ果てるともしれない高みに霞み、逆光の向こう側で黒いシルエットが眩しい。 やがて、私の目の前には石造りの巨大な祭壇が現れる。年若い処女の心臓を抉りだし、空を舞う神の化身・コンドルにそれを高く掲げた神官達が立っていた場所に私は立ち止まり、遠く雪を抱いたアンデスの山並みを眺めていた。地平線近くには幻のような白い月が登り、砂混じりの風の中に太古の生け贄達が流した血の匂いが残っているような気がして、私は乾いた唇をそっと舐める。 祭壇の上には全裸のあなたが横たわっている。何重にも重ねられた目隠しの下で、あなたはまだ目覚めてはいないようだった。あなたの身体のほくろをひとつひとつ数えるように、私はじっと見つめる。二の腕の内側・・・左の乳房の脇・・・あなた自身の欲望の中心部・・・横たわるあなたの裸身を妄想のなかで犯し続けていた夜の記憶がふいに蘇り、私は私自身の記憶の存在にかすかに恐怖していた。 何時ものように、モニターのこちら側でひとり座っている私を改めて意識する。だからと言って何かが変わった訳では決してなかった。
さて、 何かを伝えるために書いているのではありません。しかし、妄想を愛する愚かな性癖は一向に改まりそうにもありません。鏡に写ったあなたの影は、やはり僕が見たいと望んでいた自分の影でしかないのでしょう。その影に孤独な匂いをみつけたのは、やはり僕自身の妄想のせいなのかも知れません。
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