登山家、それも無酸素・単独登頂でヒマラヤをめざすような男は、たぶん友人としては最悪の部類に入るでしょう。自らの生活はもちろんのこと、妻やまわりの人間すべてを己の行為に隷属させて恥じることがない。より困難なルートを求めて頂上をめざしながら、自らの人生のすべてを山に捧げるなどときれい事を吐くような男は実は何処にもいない。そんな着飾った言葉の通用しない世界で彼は生きているようだった。エゴイズムとねじくれたコンプレックスにつき動かされる己自身を、孤独な山のなかでよりよく知ってしまったからだろう。 例によって、普段から特別に登山に興味があるわけではありません。たまたま見たテレビに登場した彼の日焼けした顔から覗く真っ白な歯の、その輝く白さと笑顔になにやら心惹かれたからです。 自らの人生や生命さえ、その秘めた情熱の渦に投げ込んでしまいかねないのが「山野井泰史」と言う男の日常のようだった。未踏のより困難な西壁からのヒマラヤ・マカルー登頂をめざす彼の企ては、ひとつの落石によってあっさりととん挫する。ベースキャンプから超望遠レンズでしかうかがい知ることの出来ない彼の孤独な登頂は、まるで別人のように弱々しい下山後の彼の様子からもかすかに知ることができる。 登山家にありがちな強気一本槍ではあり得ない、彼の弱さが結局命を救うことになったのだろう。山を登る勇気の方が、降りる勇気などと言ったしたり顔の言いぐさより、遥かにそれを必要するのだと言う彼の言葉に、何度もそんな岐路に立たされた男の実感がこもっていた。そう、彼は自らの勇気のなさを広言すると同時に、そうして少しずつ自らの勇気を積み上げ、やがてあの澄みわたったヒマラヤ連峰に立つことを夢見ているのかも知れない。その勇気が自分自身の命を飲み込むことをかすかに予感しながら・・・ 今日の登山家についての番組とは、午後6時からTBSで放送中の「報道特集」での話題でした。昨日今日と何故かテレビネタが多いと思ったら、ただ、テレビをよく見ていただけでした。ヒマで何もすることがないと、テレビ見る機会が多くなります。人生無駄にするには最適のメディアでしょう。
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